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葬儀の挨拶
会葬者へのお礼

 松永伍一 (詩人)

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会葬者へのお礼

松永伍一

きょうは義姉の葬儀に、お忙しいなかをお参りくださいましてありがとうございました。実は、喪主の兄がご挨拶を申しあげるのが本筋でございますが、あまりにも突然に伴侶を失いまして、傷心の底に沈んでおり、十分にお礼の言葉を申しのべる自信もないと申しますので、私が代ってここに立ったようなわけでございます。

  こう申しあげている私も、飾られた義姉の写真を眺めながら、これは夢ではなかろうか、幻を見ているのではなかろうか、とおもうのです。と申しますのは、一昨日の夜、こちらに講演に参りまして、久しぶりにこの生家にやってきて、義姉の手料理のご馳走を受け、内輪だけでたのしい時を過ごしていた、その直後に、心筋梗塞で、すーっと風のように去って行ったからでございます。いまそこにいて、世俗の話に花を咲かせていたのに、「さようなら」の一ことも言わず永遠の眠りにつくというドラマを、どうして現(うつつ)のこととおもえましょう。

  「さよならだけが人生だ」という、とても気のきいた言葉がありますが、「さよなら」も言わずに還らぬ旅につく人を見送らねばならない人生を、私は経験したのであります。いま「さよならだけが人生だ」という名文句が、とてもロマンティックなものにおもわれ、これには十分に救いがあるじゃないか、お互いに視線を交わし合う間だってあるじゃないか、でも、「さよなら」もなく現世と来世を引き離される人生を見せつけられると、赤ん坊の泣き声のように叫びたくなります。五十八歳でしたから、早すぎます。

  やり場のない心をたぎらせて一夜を明かした私は、「無常」という言葉の重みをかかえ込んでおりまして、「世のはかなさ」「人のいのちのはかなさ」を、義姉が私に教えてくれたのだとおもうようになりました。遅れ先だつのは世の慣いと申しますが、先だつ人は遅れる人に、浄土の尊さを知らしめる役目をはたしているのだとおもえば、納得できるのであります。阿弥陀如来が早めにお招きになったのだ、「弥陀の誓願」にあずかった幸せな人なのだ、とおもいはじめましたときに、心のどこかに安らぎを覚えたのであります。



  義姉は、この家を支える大事な人でありました。四人の子女をみな健康に育て、心おごらず、祖先をうやまい、人を明るい光で包みこんでいく、いまどき珍しくよくできた女性でありました。内輪の者がこんなことを申しあげるのもどうかとはおもいますが、人を恨まず人に憎まれず、身辺をつねにきれいにして、おまけに笑いを絶やさなかったのも事実であります。私がこの生家に寝起きして八年間、義姉と同じ屋根の下で過ごしましたが、たったの一度も喧嘩したり、さげすんだりしたことはありませんでした。母が亡くなりましてからも母代わりで、私も勝手に甘えてきました。村に帰ったときなどは、昔私がやっていた通り、下着の洗濯などもしてもらい、そのことで、ふるさとという温かいものに触れることもできていたとおもいます。

私はやがて五十歳になろうとしておりますが、義姉のおおらかな人柄を前にすると、つい心がなごみ、邪心が薄められていくのであります。私の生まれた家がこの人の心で温もりをもっていると感ずればこそ、上京して二十三年たちましても、「ただ今」と言いたい気持にさせられたのであります。
義姉は亡くなった夜も、私が講演先から生家に着きました直後、「洗濯ものがあったら出しときなさい」と言いました。私は「お願いします」と言って、風呂場の籠のなかに投げ込んだものでした。この自然な、よそよそしさのない交わりのつづいたことを、いま故人に感謝したい気持でいっぱいであります。

  きくところによりますと、死の予感でもあったのか、亡くなった日の午後、自分の写真のありかを、遊びにきていた次女に教え、数珠をあげると言い、数日前から広い屋敷内の草取りをしたり納屋の片づけなどもして、「人がたくさん見えても、これなら大丈夫だから」と話していたそうであります。兄の話では、亡くなった日の午前中に、冠婚葬祭互助会の最後の掛け金を納め、「子どもたちの結婚式はみんな終わったし、あとは私たちの葬式代がいるぐらいですね」と、いつものやさしい笑みを浮かべていたとのことであります。

  霊感というものがどういうふうにあらわれて来るものか、私はよくわかりませんが、こんな話をききますと、義姉はすでに阿弥陀如来の招きを無意識のうちに受けとめていたのではないかとおもいたくなります。浄土に生まれ変わる人の、これはまさしく美しい旅立ちであります。私は悲しみません。
どうぞ皆さまも、浄土に参ります故人の安らかなうしろ姿を、お見送りいただきとうございます。そして、生前のご縁に対してのお礼を、故人に代り、また喪主に代わり、私から申しあげさせていただきます。「ありがとうございました」

「ここ一番役立つ有名人・名スピーチ集」 より


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